特殊詐欺 「金主」が存在する限り一向に減らないのが現実

 特殊詐欺グループが逮捕されたときのニュースでくりかえされる「リーダー格」という言葉を不思議に思ったことはないだろうか。なぜ、単にリーダーとはせずに「格」をつけるのか。それは、リーダー格と呼ばれる人物が、正確にはそのグループのトップとは言い切れないからだ。ピラミッド型だと言われる特殊詐欺グループのてっぺんに存在する「金主(きんしゅ)」とは誰なのかについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。

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 いわゆるオレオレ詐欺など「特殊詐欺」は、金に逼迫した若者たちが裕福な中高年を狙う卑劣な犯罪、と言う風に世間には認識されている。実際に特殊詐欺で捕まるのは、ごく普通のどこにでもいそうな若者、そしてうだつの上がらなそうな暴力団員や半グレばかりで、結局こうしたどうしようもない属性の人間が手を染めている、と呆れる人も少なくないだろう。

 しかし、彼らは犯罪組織の末端中の末端。連中のバックには、あまりに計算高くもっと凶悪で巨大な“金主”という存在がある──。

「例えば、今、流行ってるようなタイやらフィリピンから日本に詐欺電話をかける方法。これはあっち(の国)の組織と繋がってなければ無理だし、拠点となる家を借りたり、電話やパソコンなどの道具、かけ子の募集費用や渡航費用、当面の運営費だけ考えても“億”はいる。そんじょそこらの半グレ風情が集まって、はいやりますよって言ってもできないんですよ」

 こう話すのは、かつて特殊詐欺に関わっていた経験のある元暴力団関係者・N氏(40代)。もっとも、N氏が関与していた時代は、現在よりもローカルな単位で、リーズナブルに詐欺が行われていたと説明する。

「まず、ハコ(拠点)、道具(電話帳リストや電話)、人間(かけ子や出し子)の三点セットを準備するところから始まるのですが、全て国内で完結します。取り締まりが厳しくなりハコが警察に狙われ始めると、ハコを仕切る現場の責任者の裁量で、かけ子がビジネスホテルやレンタカー、キャンピングカーを拠点にしたりして、分散していきました。道具、特に電話も入手が困難になり、買えてもバカみたいに高い。受け子や出し子のリスクも高くなる一方で人集めも厳しい。そこで考えられたのが、中国を拠点にした詐欺です」(N氏)

 筆者の調べによれば、2015年頃から、日本を離れ海外に拠点を移す詐欺グループが増え始めた。現地当局や、反社勢力の協力者に渡す“賄賂”分なども含め、それなりの金はかかるが、少なくともハコの運営者やかけ子が逮捕されるリスクを抑えられるのだ。

「結局、まずは電話をしないと始まらない。架空請求ハガキ、架空請求メールよりは格段に実入りがいいんです。いくらか安心して電話ができるようになったら、今度は日本国内で受け子や出し子を探す。まあこの辺は、SNSで適当に引っ掛けた人間を使えば良い」(N氏)

“使えば良い”と軽くいってのけるN氏だが、この結果、出し子や受け子のトラブル、中高生の参入、そして「アポ電強盗殺人」などが起きてしまった。以前筆者が取材した関係者は「強盗は想像したが殺人(の発生)は想像以上」と驚きを隠さなかった。

 ところで、ニュースなどではほとんど論じられないことだが、いくら金に困っているとはいえ「殺し」までやってしまうほど、若者は困窮しているのか。「金持ちの老人が憎い」という一部の若者が抱く妬みこそが、モチベーションになり得ているのか。

「はっきり言うと、特に出し子や受け子はぼんやり“金が欲しい”という人たちばかりです。中には、明日までに10万必要、といって詐欺の門戸を叩く人もいますが、生きる死ぬではない。すると、どうやってタタキ(強盗)や殺しまでするに至るか。それは、金主に絶対に逆らえないという運営側が、彼らにハッパをかけているからに他ならない。詐欺のリーダー格が逮捕された、なんてニュースで言ってますけど、彼らの上には金主がいる。ここから出資された金を増やして上がりを出さなければ、リーダー格はその身すら危ない。それこそ、暴力で屈服させたり、あるいは猛烈な社員教育的なことをやって……。とにかく稼ぐことが第一だと、手下に叩き込む」(N氏)

 特殊詐欺グループの拠点が摘発された、というニュースで見たことがある読者も多いだろう。拠点内には「目標◯◯◯円」「売り上げ◯◯◯%突破」などといった張り紙が掲げてあることも少なくない。中では、いっぱしの営業マンよろしく、詐欺のための、そしていかに多くの金を掠め取るかの教育がなされている。もちろん現場組は「儲けるため」にやっていることだが、リーダー格以上になれば、儲けを出し、金主に上納することが至上命題となる。

 金主と書いて「きんしゅ」と呼ぶその言葉は、事業や興行主に資金を提供する人の呼び名だ。詐欺の場合は当然、その詐欺を実行するにあたり、根本の準備資金を提供する人たちのことだ。その人がいなければ詐欺グループは設立されず、実行する力もない。

 では、金主とは一体、具体的には誰なのか。

「昔は有名暴力団の二次団体、三次団体のエースが関与していたと聞きますが、最近は金主が一人ではない、という場合もあります。例えば、中部地方のある反社勢力は、一般人が代表の法人を立ち上げ、投資名目で一般人から金を集め、その資金を詐欺に回しているといいます。金主のほとんどは、表向きは自分の金が詐欺に使われているとは知らないことになっているし、知ったところで、金が増えて返ってくるのなら、別にどうだっていいんですよ」

 詳しいことは知らないけれど、儲かるビジネスに出資しているだけ。もし、出資先のビジネスが違法なもので、摘発されるようなことがあったとしても、そのビジネスにはまったく関係していないから問題ない。金主の本音は、そんなところか。そして、金主まで自動的に取り締まれる法律も整っていない。

 もっと言えば、そういうことはすでに織り込み済みであり、詐欺の末端要員からリーダー格、そしてそこから金主に至るまでに、何人の人間が関与しているか、どれだけ警察当局が捜査しても明らかになることがないほど、組織そのものが複雑に形成されている。反社系の金主であっても、末端に“詐欺費用”が流れる過程で、いわゆる「善意の第三者」に位置する一般企業や一般人を多く巻き込む。こうすることで、末端やリーダー格が逮捕され、当局の苛烈な突き上げ捜査によって全てを吐いたところで、善意の第三者より上に、捜査が進むことはない。この善意の第三者も騙されて詐欺スキームの仕組みに取り込まれているパターンが多いからこそ、末端やリーダー格逮捕以上のニュースが出る訳がないのだ。

 名古屋市近辺の反社事情に詳しい男性がこう言うように、例えば全国規模のニュースで報じられるような大規模な投資詐欺事件などで得られた金が、犯罪収益として当局に確認されないまま、次の詐欺の資金に充当されている場合もある。結局、詐欺で得られた金は、新たな詐欺に利用され雪だるま式に膨らんでいく仕組みであり、その過程で多くの被害者を、そして金主やリーダーと呼ばれる人々に焚きつけられた多くの加害者が生み出される。これが、特殊詐欺事件が一向に減らない、そして新たな詐欺が次々に生まれる理由なのだ。

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特殊詐欺 「金主」が存在する限り一向に減らないのが現実